呼吸 第3回 膻中(だんちゅう) ― 心が世界と交わる場所
呼吸と感情の関係を、身体で感じてみよう
胸のまんなか、「膻中(だんちゅう)」という場所
胸の真ん中――両方の乳首を結んだ線のちょうど中ほど。
そこに、東洋医学でいう「膻中(だんちゅう)」というツボがあります。
この場所は「心包(しんぽう)」という経絡に属し、
心臓のまわりを包み守る“心のよろい”のような働きを持ちます。
また、膻中は**「気の会(きえ)」**――
つまり、「気(エネルギー)」が集まる大切な場所でもあります。
不安なとき、胸がぎゅっと縮む。
安心したとき、胸がふっと広がる。
誰でも経験がありますよね。
その感覚の中心にあるのが、まさにこの膻中です。
呼吸と感情は、胸の奥でつながっている
息が浅くなると、心も落ち着きません。
逆に、ゆっくりと深く息を吐くと、
気持ちが少しずつやわらいでいくのを感じます。
これは偶然ではなく、
呼吸と感情が同じリズムを共有しているからです。
息を吸うときには、心拍が少し速くなり、
吐くときには、ゆるやかになります。
この自然な揺らぎを「呼吸性心拍変動(RSA)」と呼び、
身体と心が調和しているときにこのリズムは美しく整います。
つまり――
呼吸は心のリズムを奏でる楽器なのです。
「呼吸的共鳴(respiratory entrainment)」とは?
最近の研究では、
人と人が一緒に呼吸を合わせることで、
心拍や脳波まで共鳴することが分かっています。
これを「呼吸的共鳴(respiratory entrainment)」と呼びます。
たとえば――
- 誰かと一緒に深呼吸したとき、
- 赤ちゃんを抱っこしてあやすとき、
- お灸や鍼を受けて、施術者と呼吸がそろっていくとき、
私たちは無意識のうちに、
お互いの「呼吸」を通して世界と調和しているのです。
膻中は、その“共鳴”の扉。
胸の中心がやわらかく開くことで、
私たちは他者の存在を“感じ取る”ようになります。
膻中を感じる、やさしいワーク
難しいことは必要ありません。
まずは静かに、自分の呼吸に耳をすませてみましょう。
- 胸のまんなか(膻中)に、手のひらを軽く当てます。
- ゆっくり息を吸って、胸が少しふくらむのを感じます。
- ゆっくり吐いて、手のひらが体と近づくのを感じます。
- 3〜4回くり返してみましょう。
胸の奥に、あたたかい空気が流れるような感覚があれば、
それがあなたの**「気」がめぐる感覚**です。
慣れてくると、
呼吸とともに心が静かにひらいていくのが感じられます。
呼吸がつくる“共鳴”のちから
私たちはひとりで呼吸をしているようで、
実は、世界と呼吸を分かち合っています。
風が木々を揺らすように、
私たちの息もまた、まわりの空気を揺らしているのです。
息を感じることは、
心をひらき、世界と響きあうこと。
膻中――胸のまんなかには、
その“共鳴”のための小さな扉があるのです。
今日、ひと呼吸ごとに、
少しだけその扉を開いてみてください。
まとめ
- 膻中は「気の会」――エネルギーが集まる場所
- 呼吸と感情は胸の奥でつながっている
- 膻中を意識した呼吸は、心をひらき、他者との共鳴を生む